ダイワ『バスハンターSP(サスペンド)』
「バスハンター」の派生モデルとして1983年にデビュー。
このカラー、ぼくには、イクラにしか見えないのだ。
そして、
イクラを目にすると必ず、
昔のちょっとした事件を思い出すのである。
小学生のとき、
山荘にやって来た工事関係だかなんだかの初老のおじさんが、
「渓流は赤いのを付けとけば釣れる」
「赤かったら何でもいい」
「でもやっぱりイクラが一番」
ってなことを教えてくれた。
「本当かよ…?」
と思ったぼくは、
すぐに試してみたくて(おじさんと勝負がしたくて)たまらなくなった。
すると、おじさんは、
「今日、これから行くから、連れていってあげる」
と言うではないか。
冷蔵庫にはイクラがある。
もちろん釣り道具はひと通り揃っている。
ぼくは、最低限の荷物をウエストポーチに詰め込むと、釣竿を持ち、おじさんの車に乗り込んだ。
(両親からも「連れていってもらいなさい」みたいなことを言われた。)
揺られること40〜50分、、
車道に沿うように現れた山間部の流れは、満々とした水を轟かせている。
しばらくすると、上流部に架かる小さな橋の上で、ぼくは車から降ろされた。
次の瞬間、川を覗き込むぼくの背中に、まさかの一言が投げかけられる。
「後で迎えにくるから」
…おじさんは、そう言い残すと、(恐らくは次の現場へと)走り去ってしまった。
ぼくは、てっきり、
“おじさんも一緒に釣りをするもの”
だと思っていた。
両親もそう考えていたはずだ。
仕方がないので、ぼくは一人で釣りを始めた。
そもそも小学生がこんなところで一人で釣りをするのは危険極まりないのだが…
この川は確かに釣れた。
ちなみに、反応がよかったのは、イクラではなく、川虫だった。
山荘を出たのが昼過ぎだったので、日没はすぐにやってきた。
おじさんの言葉を信じて(というか、信じるも何も、おじさんに言われた通り)、ぼくは迎えを待った。
暗くなってからも1時間は待った。
しかし、待てど暮らせど、おじさんは迎えにこない。
端的にいうと、ぼくは、
「置き去りにされた」のだった。
さすがに心細い。
そこで、ぼくは、一人で帰ることにした。
山を下って集落に出てしまえば、ひと安心。
その後、幹線道路を辿ればいい。
青看板もあるだろうし、余裕だ。
途中、地元のおばさんに訝しがられながらも、
ぼくは、夜道を走り続けた。
(走っている最中、疲労を全く感じなかったことをはっきりと覚えている。ほとんど休んだり步いたりすることなく、本当に、走り続けたのだと思う。)
斯くして、日付が変わる前には、無事、山荘に帰り着くことができた。
山荘の前には、パトカーが2台。
警察の原付も数台とまっていた。
ぼくを置き去りにしたおじさんは、パトカーの車内にいた。
パトランプは、山荘の100m程手前から、木々の隙間を縫ってよく見えていた。
しかし、
一人でも(ちょっと遠いけれど)余裕で帰れると思っていたぼくには、
焦りや安堵といった感情は特に湧いてこなかった。
ただただ、
「あぁ、やっぱりな…」
というような気もちだった。
実はこの時、
心配した両親が警察に連絡・相談、
捜索願を出して…
という段階だったらしい。
ところが、
「どこへ連れていき、どの川で降ろしたのか」
肝心のおじさんは、記憶が曖昧で、全く答えられなかった。
当初、父親がおじさんの会社兼自宅に電話したときも、
おじさんは、
ぼくを釣り場に連れていったことすらすっかり忘れていたようなのである。
結局、
ぼくが無事に帰ってきたことで、
「事件性はない」ということになり、
すぐに解散。
(父とおじさんは、パトカーに乗って、地元の警察署へ向かった。)
ぼくはお咎めなし。
その後、、
おじさんがどうなったのかは知らない。
父親にも聞いたことがない。
ただ、おじさんが山荘を訪れることは二度となかった。
あれだけもうろくしているのだから当たり前だ。
そして、ぼくの行動範囲は、この経験を機に、輪をかけて広がっていくこととなる。
いい思い出。
釣れ釣れ度■■□□□
ロスト度■■■□□
レア度■■■□□
「神隠し」度□□□□□