東光/タナゴ竿

学生のとき、最新の、60万円を超える“鮎竿”を持たせてもらったことがある。

 

 

それは、もう、驚異的な軽さだった。

 

 

その一方、和竿は、テクノロジーを結集してつくられたカーボンロッドのように軽くはない。

 

 

けれども、初めて“竹のへら竿(紀州竿)”を握ったとき、ぼくは不思議な感覚に襲われた。

 

 

「この竿には絶対、神経も、血液も通っている」

 

本気でそう思った。

 

 

竿先までが、自分の腕、掌、指先の延長にあるような錯覚に陥ったのだ。

 

 

 

釣りを趣味にしている以上、上等で美妙な和竿を持つことは夢であり、必然。

 

 

 

『節なしタナゴ竿』

 

 

2012年に逝去した「東光(とうみつ)」こと山野明光氏の遺作。

 

 

江戸和竿の起源とされるのが、天明年間創始の「泰地屋東作(通称:東作)」である。

 

 

「東光」は、4代目東作の高弟の一人。

 

 

中でも“竹の目利きに抜きん出ていた”ことは有名な話だ。

 

 

亡くなられた後、自宅兼工房に保管されていたものを、

「うちにあってもしかたないから」

と、奥さんが某老舗専門店に出したのだという。

 

 

印籠10本継

替手元付

 

全長/5尺3寸4分(約203cm)

替手元使用時/3尺4寸7分(約132cm)

仕舞寸法/6寸4分(24.3cm)

印/菱形東光

 

 

この竿がもつ魔力(と、道具としての魅力)は到底言葉で説明できるものではない。

 

 

たまたま飛び込んだ専門店での、7代目と御子息との出会いが、

“本物の美と伝統”

をぼくに教えてくれた。

 

 

そして、それは同時に、一生涯の付き合いになることを約束しているのだった。

 

 

 

よく誤解されるのだが、

竹竿は決して折れやすいものではない。

 

 

やたらと繊細に扱う必要なんてないし、とても丈夫である。

 

(正しいメンテナンスさえ怠らなければ、カーボン製の竿よりも、ずっと永く使える。)

 

 

ちなみに、価格は、10万円台。

 

 

 

釣れ釣れ度ー

ロスト度ー

レア度ー

「江戸の粋」度■■■■■

*