学生の頃通っていた釣具屋に、
「武田さん」という、
齢五十に近いと思われる、恰幅のいい、イカツイおじさんがいた。
店員ではない。
客だ。
(買い物をしているところを一度も見たことはないが…)
おじさんは、いつも、
店を入って正面、
カウンターの前に、
こちら向きで座っていた。
なんでこちら向きなんだよ…⤵︎
座っているアウトドアチェアが、床几(しょうぎ)椅子にしか見えない。
そして、なぜか、一年中“うちわ”を手にしていた。
軍配のつもりなのだろうか。
おじさんの風貌も相まって、
釣具屋で陣を張っている戦国武将そのものだった。
ちなみに、おじさんの本名は“武田”ではない。
どこからどう見ても武田信玄みたいだから、
ぼくが勝手に、
「武田さん」と呼んでいたのだ。
で、武田信玄は おじさんはいつもそこにいるものだから、
敵陣突破しなければ買い物ができない…⤵︎
ぼくも頻繁にその店を訪れていたし、
否が応でも、
言葉を交わすこととなる。
お互い、バス釣り好き、ルアー好き、タックル好き、、
特に二人とも「5001C」を愛用していて、、
親子ほど年の差があるぼくらでも、同盟を結ぶ 意気投合するのに時間はかからなかった。
ある日、おじさんが、ぼくにひとつのルアーをプレゼントしてくれた。
「他国の大名に価値ある物を贈ることで、相手と誼(よしみ)を通じ、戦を避けたり、同盟をより強固なものにしたりする」
という意味合いからだろう。
ヘドン『ポップアイヘッドハンター』
ところが、、である。
数か月経ったある日、
「『ポップアイヘッドハンター』をどうしても返してほしい」
「3,000円で買い取る」
と言うのだ。
別にお金なんていらない。
ぼくは、すぐに、ルアーを渡した。
その時のおじさんの嬉しそうな姿は、今でも忘れられない。
なんでも、“とても思い入れのある”ルアーらしいのだ。
それからは、
店を訪れる度に、
(やっぱりこちら向きで座っている)武田さんは、
ポケットから『ポップアイヘッドハンター』を取り出して、
ぼくに見せながら、
「ありがとう!本当にかわいいルアーだ!」
なんてことを言うのだった。
ルアーとは不思議なものである。
五十のイカツイおじさんがそこまで熱くなれるのだから。。
ぼくはそれが単純に嬉しかったし、
(少し気もち悪かったが)
おじさんの姿を見ていると、
こっちまで幸せな気分になれた。
同時に、
(ちゃんと仕事してるのか??)
と、いつも心配になった。
『ポップアイヘッドハンター』は、元は、Rabble Rouser(ラブルルーザー)の「Baby Ashley(ベビーアシュレイ)」というルアー。
メーカー消滅後、’80年代に、ヘドン製となって生まれ変わったのだ。
ラブルルーザーといえば「Rowdy(ローディ/ラウディ)」。
そう、、通称“ダメおやじ”である。。
しばらくして、店が移転し、おじさんとも音信不通になってしまった。
今でも、ポケットに、『ポップアイヘッドハンター』は入っているのだろうか。
真冬なのに“うちわ”を持ち、
どこかの釣具屋で、同じように、
陣を張っていることだろう。。
お店に迷惑を掛けてはいないだろうか。
ちなみに、この『ポップアイヘッドハンター』は、数年前に中古ショップで購入したもの。
(もう一つ、当時、そのやり取りを見ていた店主が探してくれたものを、ぼくはどこかに持っているはず。)
数投しただけなので、使用感は割愛する。
釣れ釣れ度ー
ロスト度■■□□□
レア度■■■□□
「風林火山」度■■■■□