STORM/FATSO 3/8oz ②

第一次バス釣りブームには多くの釣り人を集めたA沼。

 

 

’90年代以降はメディアで取り上げられることもなくなったが、

A沼は今でも、個人的に、50upが狙いやすい釣り場である。

 

 

ボロボロの『ファッツオー』。これを見るたびに思い出す。

 

 

25年以上前の話。

 

A沼で陸っぱりをする場合、(よく釣れる)ポイントはかなり限られていた。

 

 

そこで、

プレッシャーの少ないポイントに入るため、

道なき道を藪漕ぎして水際に出る…

ということを当時はよくしていた。

 

 

そうやって見つけた、あるポイントがあった。

 

 

岸からかなり離れた場所に大きな捨て石が相当数沈められていて、

それらが葦と絡んでハニースポットをつくり出していたのだ。

 

 

しかも、超どシャロー。

ボートも入れない。

 

 

この『ファッツオー』をゆっくり引くだけで、立て続けにバスが釣れた。

 

 

そのポイントへ行くためには、先ず、

幹線道路沿いに建つ巨大な廃墟に入る。

 

次に、廃墟を抜けて、葦原に出る。

 

 

そこからポイントへ向けて、6〜7分、葦原の中を歩くのだが、

 

途中、

 

葦原を開拓して畑をつくり、

小屋を建て、

生活している人(裸族ではない)がいたのである。

 

 

ところが、この住人がかなりのくせ者で、やたらとキレるのだ。

 

 

そっと通り抜けようとしただけで、

 

なぜかこちらの気配を察知し、

 

「バカ野郎!勝手に人の土地に入るんじゃない!」

 

「ぶっ殺されたいのか!」

 

「不法侵入で通報するぞ!」

 

などと、大声で、ツッコミどころ満載のせりふを吐いてくる。

 

 

とは言え、

 

そのルート以外はあまりにも過激な藪漕ぎになってしまうし、

 

「住人に見つからないように通り抜ける」

というスリル満点の楽しみ方もあって、

 

いつもそこを通っていた。

 

 

いわゆる“当たりルアー”。なぜか、この個体だけは、よく釣れるのだ。

 

 

そんなある日、ついに事件が起きる。

悪友が(断じてぼくではない)、住人を挑発してしまったのだ。

 

 

意味不明な叫び声を上げながら、鉈(ナタ)を振りかざして追いかけてくる住人。

 

これはヤバいやつだ…。

 

逃げ道はなく、ぼくらは必然的に、葦の中に飛び込んだ。

 

 

ところが、背の高い密集した葦は、視界はおろか、方向感覚さえも奪ってしまう。

 

 

「どうせ、すぐに、岸か水際に出られるだろう…」

と思っていたのだが、一向に葦原から抜け出すことができない。

 

 

足もとは突然底なし沼のように沈むし、

どこからナタを持った住人が出てくるか分からない。

(これが本当の『プラトーン』だ…)

 

 

安定した釣果を期待できるのは1/3ozなのだが、これだけは別。

 

 

恐怖におびえながら、もう何十回と葦を掻き分けた…

 

その時、

 

目の前の葦が、

 

触れてもいないのに、

「バサッ」と左右に割れたのだ。

 

 

 

ほぼゼロ距離。

 

 

 

正直に話すが、ぼくはびびってオシッコをちびった…

 

 

同時に、

 

「あぁ…ナタを振り下ろされる…」

 

「終わった…」

 

と本気で思った。。

 

 

しかし、、衝撃に襲われることはなく、ぼくは生きていた。

 

 

葦の向こう側から現れたのは、

 

ナタを持って怒り狂う住人とは全く別の

 

全身が黒光りしている、

 

骨と皮ばかりの、

 

高齢の男性であった。

 

 

全裸の。

 

 

まさか、この広大な葦原の中に、

政府ですら未確認であろう、

別の人間が棲息しているとは…。

 

 

 

そう、これが、もう一つの裸族との出会いである。

 

 

否、出会いと呼ぶにはあまりにも短い、一瞬の出来事であった。

 

 

この全裸の男性、尋常じゃないほど、躍動感に溢れる…というか、動きにキレがあった。

 

 

左右に軽くステップを踏んだかと思うと、

 

転瞬の間に、

ゴキブリのような身のこなしで、

「カサカサッ」と葦の中に姿を消し、

それっきり現れることはなかった。

 

 

ぼくを敵だと思ったのだろうか?

 

 

びっくりしたのはこっちの方なんだけど…

 

 

ひょっとして、

 

 

残留日本兵?

 

 

最も“ルアーらしい”ルアーなのかもしれない。

 

 

人生でこれほど驚いた経験はない。

 

 

30年以上釣りをしてきて、

夜中のウシガエルよりも、怖いお兄さんに絡まれたことよりも、怪奇現象よりも、

ぼくにとっては、はるかに怖い出来事であった。

 

 

 

釣れ釣れ度■■■□□

ロスト度■■□□□

レア度■■■□□

「『戦争は終わったんだ』と伝えたい」度■■□□□

*