10年ほど前、
黒のロングコートを着てバス釣りをしている男性に出会った。
異様だった。
あの場所に、あの時間、、
別に仕事帰りではないだろう。
そもそも、生きている人間なのかどうかも怪しい。
とにかく、
(関わっちゃいけない人だ)
と思ってその場を離れた。
斯く言う私も、
さすがにロングコートを着たことはないが、
高級なダウンジャケットを着て釣りに行ったことがある。
釣りっぽい格好が大嫌いだからだ。
そこで、(オシャレをして行こう)と…
私はとてもバカである。
厳寒期にトップを投げる方も投げる方だが、
ふっくらとしたダウンジャケットは全く釣りに向かない。
ただ、薄氷の張るような状況下でも、体力のあるバスはシャローにいることがある。
だから、釣れればデカイ。
シャローっていっても、めちゃくちゃごちゃごちゃしている場所にいるのである。
誰もが投げることを躊躇する、または、「こんなところにいるわけがない」というポイントに。
つまり、陸っぱりだと、多少の藪こぎが必要になるのだ。
…入っていけるわけがない。
高級な、ふっくらとしたダウンジャケットを着ていたら。
で、やけになって、これを投げた。
オープンウォーターに。
『セミオート』
釣れるわけがない。
でも、、
下ろし立てのルアーだったし、
動きがおもしろい(キャストするとゼンマイが巻かれ、翅がパタパタと上下する)ものだから、
気がつくと私は『セミオート』を扱うことに夢中になっていた。
その結果、最も大切なことを忘れてしまっていたのである。
ふっくらとしたダウンジャケットを着ていたことを。
セミオートが、
ダウンジャケットの左腕に、
思いきりフッキングしてしまった。
そのままの状態で
「パタパタパタ…」
刺さったままラインが引っ張られるわけだから、
傷口をぐりぐりとやられるようなものだ。
穴が広がっていく…
こちらも下ろし立ての、
18万円のダウンジャケット。
あれから15年。
釣りのときは、“汚れてもいい服”しか着なくなった。
そして、ダウンジャケットの傷はもちろん、心の傷も、未だ癒えることがない。
釣れ釣れ度?
ロスト度■□□□□
レア度■■□□□
「“裸にライフジャケット”というスタイルを流行らせたのは親友のイチロック」度■■■■■