ルアーには、臭くなるものと、臭くならないものがある。
そして、臭くなるものは、
緩やかな曲線を描くようにして、
長い年月をかけ、少しずつ、少しずつ、刺激的なアロマを深めていくのだ。
ところがである。
中には、ある日突然臭くなるという、とんでもないやつがいる。
それが、この、ヘドン『ベビートーピード』だ。
『ベビートーピード』が好きなのは、以前、述べたとおり。
いつでも、どこでも、外せないルアーなのである。
その日の釣行にも、もちろん、持ち込んでいた。
事件は、帰りの車中に起きた。
突如として、車内にワキガ臭が充満したのである。
しかし、いくら親しい間柄であっても、「ワキガ」は、なかなかデリケートな話題だ。
普通の異臭であれば、誰かが「うおっ! クサッ!」などと言っておしまいだろう。
ところが、どこからどう嗅いでも正真正銘のワキガ臭であるため、誰もそのことに触れようとはしない。
…それにしても強烈だ。
ぼくは後部座席に座っていたのだが、
間もなくして、助手席にいた先輩が、高速走行中であるにも関わらず、少し窓を開けた。
みんながみんな、
互いに気をつかい合いながら、
ぎりぎりのところで、ワキガ臭に耐えていたのである。
実は、このときぼくは、
「ニオイのもとはぼくなんじゃないか…」
と、かなり焦っていた。
ぼくは体臭がほとんどないタイプなのだけれど、
それこそ、
「突然、ワキガになった!?」
と、悩み始めていた。
(後で分かったことだが、このときは、みんなが「ニオイのもとは自分なんじゃないか」と思い、それぞれに焦っていたのであった・笑)
結論として、これは笑い話ですむこととなる。
なんとか持ちこたえて地元に戻り、バックドアを開けると、荷室が圧倒的に臭い。
そこからさらに爆心地を探っていくと、、
ワキガ臭の主は、
ぼくのリュックのサイドポケット、ラインを切った後、フックカバーだけを付けて無造作に押し込んだ『ベビートーピード』であった。
「あのとき、なぜ突然臭い出したのか?」
については未だ不明である。
気温や荷室内の温度、湿度、釣り場の水質…など、
様々な要因が重なり合い、偶然引き起こされた、
まさに“奇跡のハーモニー”だったのだろう。
何年か振りに取り出してみると、
刺激臭は、濃く、まろやかなものになり、
腐食がだいぶ進んでいた。
釣れ釣れ度■■■■■
ロスト度■□□□□
レア度■■□□□
「要は熟成のさせ方」度■■□□□